ミニバイクを、買っちまったぞ

年末の衝動

それは突然現れた。社会人になってからぐんぐにる個人、年末になると、「今年使ってよい金」を見定め、その範囲内で、金を使う習慣がある。「一人乗りのモビリティが欲しい」。天啓だった。

一人乗りのモビリティ

ここで問題がある。すでに自分はM3という最強の相棒が控えているのだ。一連の苦楽を共にし、人馬一体となるべく研鑽した友(彼女?)に勝るとも劣らない、そんな存在でなければいけない。慎重に考えなければならない…

電動バイク

エコだなんだと最近様々な電動バイクが登場している。各社さまざまな工夫を凝らしているようだ。


正直言ってモーター駆動なんざアウト・オブ・眼中。頼まれたって乗りたくない。

私に必要なのは常に内燃機関であり、しみったれたフォークリフトもどきではない。

Peel P50

最初に浮かんだ一人乗りモビリティである。原付のエンジンが箱型三輪車(前輪二輪、後輪一輪)の下部にくっついている。イギリス産の世界最小の車と言われている。

なんとその額”一千万円!”というのは初期型であり、現在は株式を取得した会社がリメイク版を作っている、ものの、少数生産なことや円安の影響もあり、R5.10あたりで180万円だった記憶がある。原付の馬力で諸費用含め200万円というのは、一般的な金銭感覚で手の出るものでは無くなっていた。残念!

光岡 BUBU

国産P50とも言えるこの車は、ピラミッドの頭頂部のような形をしている。なかなかのサイズ感で、正直言って原付のような利便性を失ってしまう。良個体も無いような気がして、残念だが見送った。

ホンダ モトコンポ

ハンドル部や座席が折り畳みできるバイクで、1980年代に生産を開始した。形も綺麗で可愛らしく、今買わなければ次は無いと思った。

君に決めた。

フリマサイト巡り

混沌の地、メルカリはおじさんに操ることはできないと考え、約束の地、ヤフオクへ向かった。数年前に最後の買い物をしたであろうさび付いたアカウントに火を入れた。

流石個人売買なだけあり、いかにも綺麗な全身の写真なのにパーツだけや不動車など、説明を読み切らなければいけないサムネ詐欺も多く、時間を要した(嘘は言ってないなら仕方ない)。中古車はいつもの作戦である。

①なるべく良い状態

②相場より若干安い

③色は妥協

意外にも一日目で発見したその車体は、「屋内管理」「メンテ走行あり」聞こえの良い単語が並べられていた。残り日数が少ないのをいいことに最安値でベットした。

そしてまた、意外なことに、素直に落札してしまった。運が良いと自負していたが、ここまでとは思っていなかった。

出品者にも恵まれた。昔一度だけ、詐欺まがいの出品者に出くわしたが、丁寧にやり取りが進み、一点の曇りもなく取引が進んだ。相応の礼儀を返すべく、こちらも入金など遅れないよう手配した。

到着

無事に届いた車体は説明通りキック一発始動で、アイドリングも安定していた。

後日、各種書類が届き、区役所へ向かい、滞りなく自分のバイクとなった。

慣らし

思っていたより大きく、車に乗せるという目的が少し面倒に感じたものの、重量は成人男性一人で持ち運べて、いざという時はホッケーバッグに詰めて電車にでも乗れそうであった。コンビニで自賠責(10年)に加入し、事前に買っておいた最低限使えそうなメットとアルパインのそこそこな手袋をして、底を突きかけた燃料を足しに向かった。

思えばバイクのスロットルは初めて握る。似たようなところで運転経験のあるATVでは右グリップの下にスロットルレバーがあり、こちらを押して進むのだが、右グリップをひねりながら走行するのは、少し慣れの要る動作に感じた。また、変速機が存在せず、50ccのレーシングカートに乗っている気分を味わった。高めのギアで設定してあるのか、回転が上がると一気にトルクが来て、なかなかに危険を感じた。なるほど、このホイールベース、タイヤ径では法定速度が限界であるように感じた。命が惜しいので、幹線道路では道を譲ることを心掛けた。

少し慣れてくると、やはり楽しい。結局エンジンが付いていて自分で操縦できるものは何であれ楽しいのだ。数時間で飽きるが、軽自動車も、トラックも、そこは等しく楽しい。しかしこのバイク、パワーが無いのになかなかに飽きさせない。左右に揺れる吊り橋効果だろうか。不思議な魅力を感じた。

道行く乗り物好きの中年男性は、現役で走っているその単車を見られてうれしいと声を掛け、おそらく乗り物の「の」の字も知らないカップルの女子大生は彼氏に「可愛い」と伝えていた。自分の選ぶ乗り物はどこか人を魅了するものを持っている。絶大なパワーで暴力的な加速を見せる駿馬も、絵本の中から出てきたようなポニーも、心をつかんで離さない存在である。

燃料タンクが2L、レギュラーガソリンで500円だった。スタンドの店員も物珍しさに優しく接してくれた。おそらくタイヤ内圧が減っているので、エアも基準値まで入れておいた。カタログでは70km/Lと書いていて、理論上140km走れるらしい。70Lのタンクで湯水のごとくハイオクを燃やすM3とはえらい違いだ。この庶民的なアイドルは息苦しいような排気音を漏らしながら、帰路を登坂していった。

帰着

一通り走って、異常というような箇所は見当たらなかった。登坂で無理やり走ると少しガソリン臭くなるが、白煙が出ているわけでもなく、無事に行程を済ませることができた。

人生はまだ自分の知らない楽しみがある。そしてなぜかその楽しみは自分の直感に直結している。楽しくなさそうと思ったものが今までの人生で楽しかったことは一度として存在しなかった。これからも、楽しいと思うことを発見し、続けていきたい。